「日本での、革のうまれるまち探訪」その2
<東京都 墨田区>

革の知恵袋

ピッグスキンにプリントして、ナイフで細かなカッティングを施している

「KAWANOWA」は「革の輪」。とはいえ、「革」についての知識ってどのくらい持っていらっしゃいますか?
前回の「革のうまれるまち探訪 その1」でもお伝えさせていただいたように、日本国内でも革を作っている街が多くあります。代表的なものが<姫路市、たつの市>でした。

革の鞣しには水を大量に使うので、「川」が重要だと聞いていましたが、やはり市内を流れる「市川」を目にすると、“ここで何百年も前から革が作られてきたのかー”と感慨深いものがありました。

さて、今回の“まち探訪”は東京都の「墨田区」。え?東京で革づくり?と思いますよね。墨田区や台東区の“イーストトーキョー”エリア界隈は“東京のブルックリン”とも称され、様々な伝統的なものづくりが息づいている「まち」です。

1.国内で唯一“自給”できるピッグスキンを作る「東京都 墨田区」

手作業でレザーに加工しているところ

(1)江戸時代から脈々と継承される豚革づくり

ピッグスキンは読んで字のごとく「豚革」です。前回の<姫路市、たつの市>は牛革の鞣しがメインでしたが、ここ墨田区では「豚革」を得意とし、国内生産量の約9割を誇ります。

豚革の生産地となったきっかけは、戦後の豚の畜産増加に伴って、それまで他の革づくりを行っていたタンナーが、ピッグスキンへと切り替えていったのが始まりだとか。

関西が牛肉文化、関東が豚肉文化というのも、どこかで関連しているのではないでしょうか。

スエード調の柔らかな起毛タイプのピッグスキンバッグ

墨田区は江戸時代から、瓦、染色、材木などから始まり、明治以降には革、メリヤス、マッチ、せっけん、ガラス製品などを製造する工場が多く誕生しました。このエリアは日用品を中心とした、一大“近代軽工業”発祥の地でもあります。

ものづくりの技術は今なお継承されており、特にピッグスキンは国内だけでなく世界中にも多くのファンがおり、海外のコレクションに多数使用されてきました。

実は世界的に見ると、豚の“皮”というものは食肉と一緒にして流通してしまい、素材として扱われることはほぼ皆無です。けれど日本では、豚の“皮”は食べずに副産物として“革”へと加工する流通するシステムが出来上がっています。ですので、革の原皮の多くは輸入品であるのに対して、豚皮は純国産ということなのです。

 

(2)ピッグスキンの持つ特徴を生かす

ピッグスキンの表面には、三つづつ並んだ毛穴があるのが特徴

 

タンナー(鞣し業者)は墨田区の東側エリアに集まっており、墨田川と荒川に挟まれるなど豊かな水源に恵まれています。

川をはさんで向かい側の、台東区浅草、蔵前、浅草橋界隈には、革や靴、かばんをはじめとした「卸問屋」が集積しています。

鞣しから、染色、加工、漉きなど専門的な職人さん達や中小の工房が密集しており、製造から流通までを担うことができるエリアとしては、日本でも珍しい“革のまち”かもしれません。

ピッグスキンの大きな特徴は「3つ1組」で革の表面に開いている小さな“毛穴”。そのために、通気性がよく軽いので、革靴の内側(ライニングと呼びます)に多く使われてきました。

ただ最近では、国内で安定的に原皮が供給される強みを活かし、ピッグスキンを“主役”にする試みも見られます。

 

例えば、革に様々な染色を施したり、転写フィルムを貼ってカラフルなプリント地にしたり、細かくレーザーカットしたりと「これが革?!」と見まごうようなテクニックも増えてきました。

 

ベースに使われているのは、“真っ白な革”。一般的には革を白くすることは大変難しいと言われてきましたが、そこに果敢にチャレンジするメーカーも増えています。これを下地として、微細なインクジェットプリントを鮮やかに載せるような工夫も見られます。

経年変化する“革らしさ”を楽しむことはもちろんですが、逆にピッグスキンではカラフルさや、加工のバリエーションを味わうことができます。革なのに発色がキレイ、仕上げも様々あるので、バッグやレザージャケット、レディスシューズなどに使われています。

さまざまなプリントをほどこしたピッグスキン

 

また墨田区内のタンナー各社が力を入れているのは、「エコレザー」や「クロムフリー」の革。

エコレザーというのは、「日本エコレザー基準(JES)」に適合している革のことで、できるだけ“環境負荷”を減らすことに配慮し、環境面への影響が少ないと認められる革材料のことを指しています。

ホワイトのエコレザーを乾かしているところ

子供が触ったり、身体に直接触れる機会も多い「革」だけに、ホルムアルデヒドや重金属といった化学物質を使っていないエコレザーは、いま市場でも大変な人気です。今後も、「環境に配慮する社会」のトレンドを背景にして、数多くのエコレザー製品がマーケットに登場していくのではないでしょうか。


さて東京で革づくりということは、少し理解していただけたでしょうか。

次は少し北上して「草加」へ。「おせんべいだけじゃないんだ(笑)」と思われるかもしれませんね。お楽しみに。

 

◆参考URL
TOKYO LEATHER PIGSKIN 2017(パンフレット)
日本革市(http://www.kawa-ichi.jp/
一般社団法人日本皮革産業連合会(http://www.jlia.or.jp/

 

◆KAWANOWA取扱商品のご紹介

ピッグスキン使用商品

 


KAWANOWAは、「革とオトナのいい関係」を作っていくサイトです。
革についての、知られざる知識あれこれをこれからもお伝えしていきます。
また次回もお楽しみに。

「日本での、革のうまれるまち探訪」その1
<姫路市、たつの市>

革の知恵袋

「KAWANOWA」は、「革の輪」という意味を持つだけに本革の製品が数多く登場しています。
前回の「革の知恵袋」でもお伝えさせていただいたように、革という素材はかばんに仕立てるうえでも大きなメリットがあります。

まず「丈夫」であること。身に着けるものの素材の中では強度が高く、実は革は火にも強いんです。次に「経年変化」が楽しめるところ。手入れをしながら味出しをして自分らしい革に育てることもできますね。

また「切り口がほつれない」ところ。なるほど〜と思った方も多いのでは。布は切れ端のしまつをしないといけませんものね。革にはそれがありません。

他にも「触れると温かみがある」とかいろいろメリットはありますが、かばんを作るうえで革の存在は不可欠と言えます。

それでは、「革ってどこが産地なの?」と聞かれたら、答えられる方はそう多くはないかもしれません。今回は「革のうまれるまち」に迫ってみます。

1.日本の革づくりの中心地「兵庫県姫路市・たつの市」

まずは、日本での革づくりを考える上で真っ先に挙がるエリアは、兵庫県の「姫路市」と「たつの市」。2つは隣り合った市で、革の産地としてはとても古い歴史があります。

平安時代の書物からは、播磨地方(神戸市や姫路市を中心とした領域)にて革の製造が行われていたことが確認されているそうです。「日本の革文化はヨーロッパに比べてまだ浅い」と思っている方も多いと思いますが、実は「武具、甲冑、馬具、たいこ」などに、革は不可欠なものでした。江戸時代は藩の政策としても、革づくりを奨励していたようです。

ではなぜこの地域で皮革産業が盛んになったのでしょうか。
そこにはいくつかの重要な背景があるようです。

まずは革を鞣(なめ)す時には大量の水が必要なので、それを供給する「川」の存在が大きいです。市内には「市川」「揖保川」「中川」など水量豊富な川がいくつも流れています。

姫路を流れる「市川」

加えて、牛革はというのはびっくりするほど大きいので、その革を干しておく広い「河原」の存在があったようです。とにかく革を作るためには、広大な土地と豊富な水が必要なのです。

また革を干すのに適した温暖な気候であり、生皮の保存に必要な「塩」の産地が近かったこと。現在でも「赤穂の塩」は有名ですよね。

さらには西日本では、当時から多くの「牛」が飼われていました。確かに、関西は「牛肉文化」、東京は「豚肉文化」と言われます。そんなところにも革が生まれる背景があったのですね。

そして「大阪」や「京都」といった当時の商業中心地が比較的近かったことなどが、この地域での“革産業”を加速させた背景と言われています。

2.タンナーさんたちが仕入れる「原皮」とは

牛革の生産量に関しては、兵庫県が日本で一番であり、そのシェアは約70%にものぼります。特に多いのは「牛革」のなめし。他の動物に比べると格段にサイズが大きいので、タンナーさんも他のエリアとは「ドラム」のサイズや乾燥所などの規模が違います。中には「コードバン」などの高級な革を専門になめすタンナーさんも存在しています。

大型のドラム、サイズが他のエリアよりも大きいんだとか

現在、大小200件以上の工場が集積しているという、まさに「革のまち」。一部はヨーロッパなどに輸出もされており、日本の高い製革技術が世界に認められています。

革の原料となる「牛の原皮(なめす前の状態の皮)」は、北米やオーストラリアから9割以上が輸入されています。世界的に見ても、この2国は牛肉の生産・消費が群を抜いています。

もちろん国内の牛から鞣される革も、最近増えて来ています(それを地生(じなま)と呼びます)。
それこそ、三大ブランド牛と言われる「松坂牛」も、以前は皮に含まれる脂が多くて使いにくい原皮と言われていました。けれども最近では、タンナーさんの技術の進歩で、使えば使うほどツヤが出る革になり、「食べても、革としてもナイス(笑)」なブランド牛となりました。

ただ、このところ革製品の値上げが相次いでいますが、その背景は北米、オーストラリアの2国からの原皮の輸出量が減ってきているのが要因。タンナーさんの間では、「上質な原皮が手に入りくくなった」という声が聞こえます。

革の原皮は国際的な取引なので、原皮相場として変化していくのが常。
その理由として、世界的な「ヘルシー志向」によって牛肉の需要そのものが減っていること。また中国でのライフスタイルの高級志向から、車の「シート」や「ソファ」といった革製品へのニーズが急激に高まっていること。「革=高級なもの」といった昔からのイメージがあるのだそうです。

どうしても、世界の消費事情に振り回されてしまうところが、“食肉の副産物”たるゆえん。各タンナー、各メーカーも独自の工夫を重ねて、その原料の高騰に負けることなく乗り越えようとしています。

とはいえ日本の革づくりはちょうど“面白くなってきた”ところ。若手のレザークリエイターが登場したり、今までありえなかった“アッ”と驚くような革が生まれたり。決して十年一日のような仕事をしているわけではありません。

 

さて姫路の次は、東京へ。「革の産地が東京?」ってにわかには信じられませんよね。
タンナーさんに潜入もしてきましたので、そちらもぜひお楽しみに。

◆参考URL
日本タンナーズ協会(http://www.tcj.jibasan.or.jp/
TIME&EFFORT(http://timeandeffort.jlia.or.jp/
姫路電子じばさん館(http://himeji.jibasan.jp/


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革についての、知られざる知識あれこれをこれからもお伝えしていきます。
また次回もお楽しみに。